ised議事録

12-129.設計研第1回: 共同討議 第2部(3)

D1:共同討議 第2部
(開催:2004年12月12日 国際大学GLOCOM/ 議事録公開:2005年2月11日)

情報社会の段階的整理と課題――「新しい社会契約論」の発明

東浩紀

 といったところで、そろそろ鈴木健さんにお話しいただこうと思います。鈴木健さんには、問題をさらに抽象化し、情報社会とはそもそも何かという水準での問題提起を用意していただいています。

鈴木健

鈴木健
D1:鈴木健

 どうもです、僕は基本的に意味の病に犯されているというか(笑)、まずことの意味を考えないと考えられない人なので、いま何を話しているのかということについてのそもそもの意味を考えていました。そこでここまでの話をまとめつつ、自分の意見を述べていきたいと思います。

 この研究会は「情報社会と設計」というテーマなんですが、そこで情報社会とはなんであるのかというドメインが人によっていろいろと議論やレイヤーがあることをまず確認します。どの議論も全て大事なのですが、それを簡単に分類したあとで、第1回なので僕はここに興味があるという話をしていきたいと思います。

 まず、分類として情報社会を第1期、第2期、第3期というふうにわけています。はじめに結論をみせてしまうとこういったまとめの図になりますが(図1)、これにのっとって説明していきます。

図1:鈴木健フリップ
D1:図1:鈴木健フリップ

 最初に石橋さんが問題提起された非常に重要な点として、IETFやリーナスのおこなった“Rough Consensus and Running Code”やオープンソースといった世界はいったいどういう考えなのか? ということについてです。この図というのはそもそもローレンス・レッシグが「CODE」という本のなかで、日本語訳だと150ページから160ページあたりで議論しているものなんですね。どういうことかというと、サイバー空間に規制をかけるものは全部で4つあって、それは市場と法と規範とアーキテクチャの4つであるという議論を展開しています。

 そこでレッシグは、初期におけるIETFオープンソースをどう捉えるかという議論は現実とずれていると批判しています。つまり、第1期というのはある種のユートピアとしてあった時代である、と。市場と法と規範とアーキテクチャというのがあるとき、ハッカーの人たちが信じていたひとつの幻想というものを、レッシグはこう指摘しています。「サイバー空間というものは基本的にはすばらしい規範とアーキテクチャ/コードというものの規制によってのみ成立している。サイバー空間は、市場と法から独立しており、実社会とは別にユートピアが成立する」というようなものですね。つまり“Rough Consensus and Running Code”というIETFの標語は、Rough Consensusは規範で、Running Codeはアーキテクチャを意味しているわけですが、コードによってそうした空間をつくっていくということです。たとえばリーナスの「優しい独裁*1も含め、オープンソースのやりかたというのも――たしかにGPLには法的なところもありますけれども――基本的にはこの考えかたでつくられてきたわけです(図2)。

図2:第1期
D1:図2:鈴木健フリップ

 これはひとつのユートピアとしては非常によかった。しかしレッシグはそれを批判、というよりは「実際にはそんなに甘くはないんだよ」と指摘するわけです。そして第2期にはいるわけですが、サイバー空間にハッカーではない普通の人々が入ってくることによって、まず市場と法から規制がかかるようになったとレッシグはいいます。実際にIETFのなかでもこれは起きているし、オープンソース・コミュニティのなかでも起きている。むしろオープンソース運動というのは、市場との接点をもつということを積極的におこなっていこうとするマーケティング活動の一環としておこなわれたわけであって、むしろ自覚的にやってのけたわけですね。とくにここでレッシグが強調するところは、市場、つまり企業というものが政治システムに多大な影響力を行使することが起きるというところです。ですから、市場というものとハッカーの戦いが生まれる。

 そしてまた実際には、この法というものが市場と規範とアーキテクチャそれぞれに影響を与えるということをレッシグはいいます。それは近代社会とはそもそもそういうシステムであるから当然ですね。さらに市場は法に対して圧力をかけることによって規制を働かせようとします。そうすると、このネットワーク図をみると、市場というものが最終的にはすごく力をもっていきます。

 ところが、ここでレッシグがいうのはアーキテクチャ側から法に対しての規制がかけられるということなんです。これはレッシグのことばでオープンコードというのですが、だからこそフリーカルチャーを残さなくてはいけないのだ、と彼はいう。要はオープンコードとオープンソースというものが一種の第5権力として働き、――マスメディアは第4権力といわれ、その第4権力がちょうど表現の自由を保障するのと同じように――プログラムの自由を保障するということはアーキテクチャから法への規制の道を確保するという意味をもっているんだということです(図3)。

図3:第2期
D1:図3:鈴木健フリップ

 さて、ここまでの第1期・第2期の話はたしかに大事なんですが、では自分にとっての問題と興味の中心はどこなのかというと、……実は僕、サイバー空間に興味ないんですよあんまり(笑)。僕にとって興味があるのは「社会」なんですね。

 こういうことです。みなさん、インターネットが普及して革命が起きたと思っている方が多いと思うんですが、僕は何も変わっていないと思うんですね。だって、みなさん東京に住んでいるでしょう?(笑) みんなどこかの組織に所属しているでしょう、というわけで何も変わってないじゃないか、と。これは要するにちょっとした空間をサイバー上につくったけれども、たとえば車でいえばレーシングサーキットつくってそこでぐるぐるまわっているが、社会全体は車社会になっていないという状態なのではないか。

 僕はこのisedで、この水準で社会というものを考えていこうと提起したかったんです。今日のここまでの議論もそうですが、第1期・第2期それぞれにフェーズにおける設計についての議論は重要だけれども、僕はもう少しロングスパンのところでそういったものを考えていこうと思います。つまりどういうことかといえば、第3期というのはサイバー空間が社会全体のなかに遍在化しまっているということを意味します。第1期というのはサイバー空間だけの世界でした。そして第2期というのはサイバー空間と社会の関係で、相互はどういう力学関係なのか、どうやったらうまくいくのか、折り合わせをつけるのか……ということをずっと考えていた。しかしそうではなくて、サイバー空間がまさにユビキタスに社会全体に遍在したときに社会がどう変わるのか、ということを議論しなくてはいけないのではないか。

 そのとき、第2期で市場や法や規範というものは社会をコントロールするとレッシグはいっているけれども、実はそれらと「サイバー空間」との関係をみるのではなくて、今後は「社会」そのものとの関係をみなければいけない。つまり、アーキテクチャ/コードという新しいものが出てきたことによって、市場や法や規範にアーキテクチャがどのように直接影響を与えるのかということを僕は議論したい。そこで自分がいま考えているのは、各々このような感じです。まずアーキテクチャとかコードというものが市場をどのようにコントロールするか、これが僕が考えている伝播投資貨幣PICSYというものです。それから、アーキテクチャが法に対してどういうふうなコントリビュートができるかについて、新しい社会契約論ということで自分考えているアーキテクチャです。そして、アーキテクチャ、つまりコードが規範に対してどういうふうな影響を与えられるかというのは、たとえばソーシャルトラストネットワークというSFCの須子善彦さんという方と一緒につくっているソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)で試そうとしています*2。これはあくまで僕が考えている具体例であって、みんなでもっと面白くて新しいアイデアを出していければいいと思っているんです(図4)。

図4:第3期
D1:図4:鈴木健フリップ

 実は第3期にこれが来るのではないかと思っているのは、すでに第0期に話されていたことで、つまり先祖がえりなんですよ。インターネットが本当にブレイクする前というのは、社会がどうなるのかをみんな議論していたと思うんです。少なくとも、サイバー空間がどうなるのかという議論ではなかった。それをもう1回ちゃんと議論しようよ、ということを僕はいいたい。

 それでは、簡単にまとめておきましょう(図1)。

図1:まとめ
D1:図1:鈴木健フリップ

 第0期というのは、非常に空想的な情報革命論だったわけですね。そこで情報社会のドメインというのは、社会について考えるということをやっていた。そこでの顕在化の形というのはすべて未来予測だったわけです。

 第1期には、技術者のユートピアとしてのサイバー空間がというものが生まれてきました。ですからその時には、情報社会というのはサイバー空間がドメインで、顕在化の形は実際のIETFオープンソース・コミュニティの実現という形でおこなわれてきたわけです。

 第2期というのはレッシグが代表選手ですし、それから村上さんのような方がいま議論されていることもたぶん第2期に入ると思うんですけれども、サイバー空間と実社会というのはどのように関係をつくっていけばいいのかというわけですね。たとえばEAというので、村上さんはひとつの組織のなかでサイバー空間から出てきたようなアイデアとかメソッドというのをどう取り入れていくかということを考えていると理解しています。また今日オブザーバーとしていらっしゃっている佐々木さんは、コミュニティ・アライアンス戦略というコンセプトで、知識を生み出すネットコミュニティと利益をつくっていく企業というものがどのような関係をつくっていけばいいのかという実践・研究をなさっている*3。またレッシグであれば、ここでの情報社会の顕在化というものは「それはユートピアではないんだ」と警告するわけです。 

 では第3期の議論の枠組みはなにか。それは、文明史/人類史的な情報社会論ではないかと思います。こういったことを現在的に現役でおこなっている方というのは公文俊平さんくらいしか僕は存じ上げないのですが*4、社会が100年スパン200年スパンとかでどのように変わっていくのかという視点で社会について考えるものです。そしてたぶん僕の読みとしては、ここでの顕在化の形というのは「発明」というかたちだと思うんです。すでに、このような社会になったらいいなという予測はされつくしている。もう実際にそれができるかどうかというのは、発明していくしかない。ここでパソコンの父、アラン・ケイの言葉を借りましょう。“The best way to predict the future is to invent it.” 「未来を予測する最良の方法というのは、発明をすることである」といって、彼は実際にパソコンを発明した。これに倣って、新しい社会においてアーキテクチャが市場に対してどのような影響力をもつのか、それを発明していくことを僕はやりたいと思っているんです。

 さてこれだけですと、みなさんの議論と完全に独立した話に見えてしまうと思うので、3時期の議論にプロットし直すことで全体にコントリビュートしたいと思います。

 まず第1期の話としては、こういうことを議論するというのはある種の後戻りではないか、後ろ向きの議論ではないかというところも若干見受けられるんですが、ひとつ前向きな議論として「横展開」の可能性を探る方向性があります。ここで生まれてきたものを横展開していって、ほかの分野に横展開していこうということですね。井庭さんが議論されていたところというのも、たぶんそういうことだと思っています。

 横展開の形として非常に興味深いと僕が思っているのは、WIREDの記事のなかで「Open Source Everywhere」という記事がありまして、これが非常に面白いんですね*5。どういうことかというと、オープンソースのコンセプトというものを遍在化して、ありとあらゆる分野に対してオープンソースパラダイムを応用していこうというものです。ではそのオープンソースパラダイムとは何か。それは人類史的にみたとき生産プロセスの革命である、と。これはすばらしい記事だと思うのでぜひみなさんに読んでほしい。

 もうひとつは、僕自身がいま関わっているものとしてeXtreme Meetingというコンセプトの新しいミーティング・スタイルの提案と、それを支援するソフトウェア開発をしています。そもそもeXtreme Programmingというアジャイル開発の手法*6があるんですが、それをミーティングに応用してしまおうというものですね。プログラミングはプログラマしかつかわないものですが、ミーティングはみなが使うものですから、この横展開の対象は広い。

 これはいうなれば“Rough Consensus and Running Code”ではなくて、“Rough Consensus and Executing Task”とでもいうべきかたちでタスクを実行していくというものです。たとえばものすごく細かいオペレーションで会議をやっていき、その会議で細かく決定したことをすぐに実行していく。こうしたトップダウンでない会議とタスクの実行によって、生産プロセスを革新できるのではないかと思っています。実際にいまIPA未踏ソフトウェア創造事業に採択されたGalapagosプロジェクトで、中嶋謙互さん、寺岡宏彰さん、小野和俊さん、奥野洋平さんとソフトウェア開発をしています。こういったかたちでの横展開と、ツール的あるいはコンセプト的な支援をしていくというのは刺激的なところですから、ぜひこの場で議論したいと思っています。

 つぎに、第2期のほうの議論ですが、これはたとえばEAのお話のように、既得権益や既存の資産があるようなところではリエンジニアリングが難しいというのが今日の議論で出てきました。そういったところでのプロセスを改革や、法や市場というものとサイバー空間という新しいものとの折り合いをどうつけていくかといくのか、あるいはどう力学を設計していくかということについて議論をしていくということである、と。



*1:註:isedキーワード優しい独裁」参照のこと。

*2:註:須子善彦「平成16年度 未踏ソフトウェア創造事業採択プロジェクト:ユーザ間の主観的センス共感度を用いたWeblog検索システムの開発」

*3:註:ネットコミュニティの世界とビジネスの世界の接点に着目する論考、佐々木裕一・北山聡「Linuxはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦略」(NTT出版、2000年)asin:4757120451 において、Linuxというネットコミュニティで生み出された価値がビジネスの世界に編集・翻訳されるプロセスに着目するもの(レジュメ

*4:註:isedキーワード情報社会学」参照のこと。

*5:註:CNET Japan Blog - 梅田望夫・英語で読むITトレンド:オープンソース的コラボレーションが社会を変える

*6:註:以下を参照のこと。→@IT情報マネジメント用語事典 [エクストリーム・プログラミング]

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