ised議事録

08-214. 設計研第5回: 共同討議 第1部(1)

はじめに

鈴木健

 近藤さん、ありがとうございました。今日まで近藤さんとは4回ほど打ち合わせをしているんですが、「ぜひはてな以外のことを話してください」と何度かお願いしたんですね。すると「いや、僕にはできない」と断られてしまったんです。「僕ははてなという活動を通してしか物をいえない人間なんだ」と。また打ち合わせのなかで出てきたトピックについて、「これも話したらいいんじゃないですか?」と提案したら、「いや、僕は自分の知らないことについては話せません」、とおっしゃった。近藤さんは非常に職人的なポリシーをお持ちのかたなんですよ。ところが今日のお話は大変に広がりを持った画期的な内容のお話だったと思います。

鈴木健
鈴木健
 全体の構成ですが、はてなという会社がいかに会社をなめらかにしているのかということについて、大きく3つのレイヤーから事例を挙げていただきました。第一に会社の内部、第二に会社の内部と外部、第三に日本と海外ですね。特に興味深かったのは、二番目の会社の内外における取り組みです。予測市場の仕組みを使った「はてなアイデア」。会議をPodCastingポッドキャスティング)で公開し、数人の会議を1000のオーダーの人々が聞いているというのはなかなかありえない状況ですし、非常におもしろい話だったと思います。

 そこからさらに発展して、最後に会社の未来像というべきものを提示されていました。東インド会社から始まって、未来には新しい資本主義が生まれてくるんではないかという話にまで展開して頂いた。これは「新しい」といっても、かつてプルードンが目指していたものにかなり近いものではある。しかし、それがいよいよ情報技術によって実現していくのではないか。そんな新しい展望が開かれたんじゃないかと思います。

 まず委員の皆さんから、近藤さんの講演について簡単な質問はありますか。

井庭:

 予測市場の話についてもうすこし説明していただけますか。たとえば取引の途中で市場を抜けることや、投機家的な行動を取ることはできるのでしょうか。それとも、一度参加したら永続的にはてなアイデアに関わっていくことになるのでしょうか。そのあたりの市場のイメージをお聞きしたいと思います。

近藤:

 現状はいろいろなプレイヤーがいます。たとえば自分でアイデアを登録して、賛同者を集めて上場させて高い値段をつけて、最後は大株主になって配当をもらう、という長期保有をされるかたもいらっしゃいます。その一方で、「このアイデアならはてなは絶対に実装するだろう」という推測をしながらどんどん投資を行い、リターンを得る人もいる。あるいは、純粋に値上がりだけを予測して投機的に動く人もいます。そういう人もいるからこそ、逆に正当な価格がつくという現象があると思います。要するに、なんらかの「思い」だけで株を買っていても、結果的には売りあい戦になって価格が落ちてしまうことが起こりうるからです。つまりいろいろな役割の方がいるからこそ適正な関係性ができる、そうしたかたちをはてなアイデアは目指しています。

井庭:

 第1回でコメントしましたが、ハーシュマンという経済学者は「組織や社会を変えるときにふたつのオプションがある」といいます。ひとつはVoiceといって、なにかを発言して変えていくということ。もうひとつはExitで、これは退出する、抜けてしまうということです。ハーシュマンがいうボイスというのはクレームのようなもので、「こう変えてほしい」という不満のようなことを指しているのですが、僕は社会を変えるときのVoiceには実はふたつあって、クレームとアイデアではないかと考えています。そして情報社会においてクレームは表出しやすいけれども、アイデアを吸収するものがないんじゃないか、という話を第1回のときにしました。

井庭崇
井庭崇
 今日の近藤さんのお話は、その「アイデアを吸収するもの」が予測市場というかたちで実装されていると思って、非常に興味を覚えました。「みんなでアイデア募集すればいいよね」といっても、たいていは量が増えるか複雑になってしまい、実現可能性がないという話になりがちです。しかしはてなアイデアでは、その問題を市場という自己組織的なかたちでうまく吸収している。それがとても面白いと思います。

東:

 僕も市場の話は非常に面白いと思ったんですね、というのも……

鈴木健

 いまは簡単な質問のコーナーですよ(笑)。

東:

 じゃあ言わないよ(笑)。

 簡単にコメントだけさせてください。予測市場では、自分の欲望だけで動いても――僕の言葉でいえば「動物的」に行動しても――だけで、他者の欲望を含めて考えないといけない。動物化というのは「他者がいなくなる」ということですが、予測市場を作るとそれが回避できるのかな、と思いました。

鈴木:

 なるほど、面白い論点ですね。

東:

 でしょう(笑)。

楠:

 はてなは競争力が高いという議論を僕自身もネット上でよくするんです。ただ議論をしながら違和感もある。それはなぜか。たしかにはてなはマインドシェアはすごい。ネットレイティングスのトラフィックデータを見てもすごい。ただ一方で、富のゲームの原理という点でみたとき、「結局はてなは儲っているのか儲からないのか」という議論が残っていると思うからです。そこで、いま儲かっているんですかということを率直にまずお聞きしたい。もうひとつ聞きたいのは、ではその儲かっているとすればそのキーはなにかということです。トラフィックが多いから儲かっているのか、それともはてな的な知のコーディネーションによってトランザクションフィーを得ているのか。そのあたりに興味があります。

近藤:

 いまはそれほど規模の大きい会社ではないのですが、10人ぐらいの社員で黒字は出ています。最初の立ち上げから2年ぐらい受託開発も行っていまして、実質ビジネス的に見れば受託開発会社という事業形態でしたが、ここ最近になって自社の運営するサイトからの収益で回り出している、という状況です。さきほどGoogle Mapの事例を出したとき、「事業モデルのまだないうちから、とにかく地図インフラのデファクトとしての地位を確保すれば、その後についてくる価値はすべて入ってくる」という話がありました。はてなとしても、モデルが見えない段階からサービスのリリースを積極的に行いながら、回収はあとから行う、という流れの上にあると思います。

近藤淳也
近藤淳也
 現状においても、人件費さえ考えなければ、Google AdSenseAmazonアフィリエイトをはることで大量のページビュー(PV)を支えるために必要なコストは早期に回収できるようになりました。GoogleAmazonはまさにそうしたインフラとして整いつつあって、ネットサービスをやってもほとんどリスクはないというのが現状だと思います。

鈴木健

 いま近藤さんがおっしゃったのは、受託事業から自サイトだけで運営できるようになったということでした。楠さんの質問というのは、そのとき収益のベースはなにかというものです。つまりPVの大きさによるもの、すなわち広告やアフィリエイトによるものが大きいのか、それともはてなポイントベースのほうが大きいのか。後者のほうはどれくらいあるのかという質問だと思います。

近藤:

 この場で明言はできませんが、いまは広告のほうが多いかもしれません。はてなポイントは利用料でもあり広告収益のような性格も持っていますが、やはり広告のほうが値は動いていていまして、伸びているのはたしかだと思います。

村上:

 今日のはてなのお話を聞かれる方のなかには、ちょっと失礼な表現かもしれませんが、「10人の会社だからできるんじゃないか」という印象を持った方も多いのではないでしょうか。そこで質問ですが、今後はてなの社員の数は増えないのでしょうか。増えるとした場合、今のやり方は続けられるのでしょうか。それとも、社員を増やさなくとも、技術によってこのやり方が続けられていくのでしょうか。このような意味で、この10人の会社という規模の意味、もしくは今後の展望についてお聞きしたいと思います。

八田:

 その規模の話題なんですが、できれば僕のコメントとしても用意してあるので、引き継がせていただければ(笑)。

鈴木健

 ではこのまま八田さんのほうから長めのコメントをいただきたいと思います。

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