ised議事録

08-218. 設計研第5回: 共同討議 第2部(1)

予測市場の応用可能性

鈴木健

 それでは討議を再開したいと思います。3つほど議論したいことが残っています。ひとつは引き続き予測市場の話。次に会議をPodCastingしていることについて。最後に、近藤さんが講演終了近くに提示した、新しい会社のありかたについて議論したい。東インド会社以来の株式会社の形態が今後変わっていくのではないかという話ですね。

鈴木健
鈴木健
 まず、予測市場について引き続きご意見があるかたはどうぞ。

楠:

 はてなアイデアはすごく面白いと思います。しかしこれはあまたある要望をどうプライオリティづけするかという点においてうまく機能するものであって、そこから本当の意味で新しいアイデアが発明されていくのかとなると、ちょっと疑問があるんです。たとえば、はてなブックマークはてなマップとかいった最近の新しいサービスは、やはりはてなアイデアからではなくて、社員の着想から生まれたものではないでしょうか*1。これがまず一点のご質問です。

楠正憲
楠正憲
 それではなぜインベンション(発明)がはてなアイデアのなかからは生まれないのか。それは「アイデア」とはいうものの、既存のサービスの延長線上でこうやってほしいというリクエストになってしまうからだと思います。また、はてなにできることは、はてなプログラマーが一番よくわかっている。外側からはてなを見ている人にとって、なにがどれくらいフィージブルなのかは見えにくいと思うんです。いかがでしょうか。

近藤:

 ご指摘のとおりです。本当に新しいサービスをゼロから立ち上げるときのきっかけは、はてなアイデアからは生まれていません。たとえば今年に入ってブックマークやRSSやマップなどをつくっていますが、それは決してアイデア市場で人気の高い銘柄で、みんなの望む機能であったかというわけではありません。基本的には社員側の自発的なきっかけによって新サービスは生まれているのが現状です。

 なぜかというと、まず市場の設計上、新サービスは配当の見込みの薄い銘柄になりがちだからです。たとえばはてなアイデアに「次ははてなミュージックというのをつくってください」というアイデアがあるとする。しかし、それはいつの配当になるのか。その見込みを書くにしても、そもそもまず情報を書ける欄が少ないので書ききれない。そもそもいつ実現されるのかもわからないのであれば、いつポイントが回収できるのかもわからない。このことが弊害になっている可能性があります。

 また、そもそも連続的なものではなく非連続的なものをゼロから思いつくというのは、なかなか人が集まって議論すればいいというものではありません。実際はてなではそのふたつを分けています。つまり0を1にする作業と、1を10にする作業というのは別の方法論が必要ということです。そしてはてなアイデアは1を10にする連続的な改善に有効だということがわかり始めているんです。一方で0から1をつくりだす非連続的なものづくりについては、方法論はいまだ見えない、というのが現状です。

井庭:

 予測市場にもスケールの問題、規模の大小の問題は出てくると思うんです。はてなアイデアのスケールが大きくなってくると、自分が提出したアイデアが埋もれてしまう。するとそれは日常と同じことになってしまって、なにがいいアイデアなのかわからなくなる。ではどうすればいいかというと、もしかしたら広告を導入するといいかもしれない。実験的につくってみると面白いかもしれませんが、たとえばある程度のポイントを予め投資して払うことで、ユーザーが広告を出せる。それによって、自分のアイデアが目立つようになる。こうすれば、いまの日常的なマーケットと近くなるのかもしれない。それが必ずしもいいと思わないので、ものすごくおすすめするわけではありませんが(笑)。

近藤:

近藤淳也
近藤淳也
 実はそれに近いことは行われています。アイデアが実装されてはてなから配当されるのは掛け金の5倍までです。けれども、たまに10倍の値段がついて銘柄が取引されています。10倍になると、どう考えても配当されたとしても損をしてしまう。それでもなぜその値段で買うのかというと、その人が「どうしてもこれをかなえてほしい。なんとしてもはてなにこの気持ちを届けたい」ということなんですね。こうした事例は出始めていて、それがまた市場というひとつの仕組みでできているのが面白いと思います。

鈴木健

 予測市場が分厚くなればなるほど、そういうものの効果が下がってくる可能性がありますね。逆のこともいえます。また過去のはてなアイデアで大きく稼いだ人というのは、ものすごく先見の明がある人です。彼らが、数少ない人々が支持しているものに対して大量に投機することがあれば、それは採用すべきなのかもしれない。それは先見の明がある人たちが可能性があるとみなしていることを意味するから。

近藤:

 そうですね。

東:

 大規模化したらどうなるかといえば、問題点は出てくると思う。しかし、予測市場が使えるという発見だけでも大事なことです。むしろ議論すべきなのは、現実の株式市場で起きていることがらのどれを制限すれば、はてなアイデアの生産性を維持できるのか、でしょうね。ユーザーがポートフォリオを組んでアイデアのリスクとリターンを考えて、なんてやり始めたら大変なことになる(笑)。

鈴木健

 ヘッジファンドの功罪はなにか、みたいな話ですよね。

東:

 そうですね。株式市場は、不透明になった市場の全体をメタレベルで見渡す人たちを大量に生み出してきた。いまや、その株式市場でさえ、複雑な金融商品が重なって見渡せなくなってしまったのかもしれないけど。

 いずれにせよ、ケインズの美人投票の例はけっこう的確だったということかな。他人の欲望を先取りしあうアーキテクチャは、コミュニティへの参加意欲を高める、と。

鈴木健

 それはむしろ逆で、ケインズの美人コンテストの場合は価格によってリターンが決まるので、基本的にループになってしまうんです。一方はてなアイデアアカデミー賞予測市場というのは、最終的な決定をする人はその市場の外側にいるわけです。だから、いいんですよ。つまりバブルが起きないんですね。

東:

 なるほど。

鈴木健

 その東さんの問題意識は深遠で面白いのですが、いまここでそれを議論するのは人間の想像力の限界を超えているフシもあります(笑)。とりあえず一度はてなアイデアを使ってから議論したいと思うので、一度皆さん使ってみてください。

 さてここで村上さんにお聞きしたいのですが、このシステムは行政で使える感じはしますか。

村上:

 通用できると思います。中途半端に審議会の委員という制度化されたポジション、それは往々にして○○業界の代表といった社会的な意味を持つわけですが、そういう決められた役割で演じざるを得ない人の意見を聞くより優れたコミュニケーションツールになるのかもしれません。

村上敬亮
村上敬亮
 ただし、今の論点にも関係するんですが、やはり「はてなの近藤」というブランドがはてなアイデアを成立させている気もするんです。予測市場が成立するのは、そこで出てきた結果にある程度の妥当性があり、かつそれが実行されるということに対して信頼が与えられているからではないか。おそらく近藤という人格が上に座っているからその信頼は担保されているんです。

 そう考えると興味深いのは、はてなアイデアで総選挙予測を始めたということです。ここでその予測に参加する人々は、いったいはてなの近藤さんになにを期待しているのか(笑)。大多数の人は単に面白いから乗っかっているんでしょう。他方で、何かたぶんコアになる人がこの中にいるんだと思います。どこまではてなの近藤という看板がそれを背負いきって、いかなる出口を持って予測市場をやりきるのか。その判断は、おそらく政策の場合、このコミュニケーションからどのようなアウトプットが求められるのかをあらかじめ決めてしまうくらい大きなウエートを持つような気がします。そのことを覚悟した上で、それでも逆にそのアウトプットを背負えるようなブランドを本当にもてるのか。これが予測市場という仕組みの勝負の是非にもつながってくるんじゃないかなという気がします。

鈴木健

 つまり、予測市場自体にブランド性は関係ない。けれども予測市場を成立させるプラットフォームについてはブランド性が関与してくるのではないか。こういうご指摘ですね。

東:

 問題点の続きだけど、かりに、はてなの収益の5割が、予測市場の取引手数料から得られるようになったとする。すると近藤さん自体もディーラーになる可能性があるかもしれない。誰も求めていないような改良を、株価を上げて売り抜けるために近藤さんがやってしまうとか(笑)。それは誰も止められない。

鈴木:

 それは証券取引所が取引に参加するようなものですね(笑)。

東:

 そう。それではてな全体がつぶれてしまうかもしれないけど、近藤さんとしては「けっこう富も蓄積されたし、なんなら別のサービスをつくればいいかな」と(笑)。現状はそうなっていないわけですが、それは外部があるから予測市場の公正性が保たれているということなんでしょうね。

楠:

 基本的な質問ですが、現在だとはてなポイントマイレージにできるけれども、アイデアポイントはアイデアにしか投資できないわけですよね?

近藤:

 はい。何の価値もないですね。

楠:

 そうであれば、あまりそういうことは……。

東:

 もちろんない。仮の話です(笑)。。

井庭:

 そのはてなアイデアはてな以外のところでも始まると、今度は為替のような話になってくる。すると、「別のところで発言するために、はてなではとりあえず投機しておこう」といった踏み台をするプレイヤーが出てくるんじゃないか、と。

東:

 楽天ポイントなんかと連動して。

鈴木健

 まさに配当でそういうことをやりたいとおっしゃっていましたね。

近藤:

 そうですね。仮想ポイントであったとしても、社内のリソースとのリンクというのはもしかしたらあるかもしれないです。社内のリソースは人数×工数で一定数の値がありますから、それとリンクする。「これは一人日かかるので、一人日分の投資が集まった段階で開始します」というように。

東:

 乗っ取られる危険性も出てくる。変なヘッジファンドがやってきて、「はてなサービスの9割は俺がつくる」みたいな。

井庭:

 ふつう市場というのは、できたものを売り買いするわけですよね。予測市場はそうではなくて、ものをつくる前に市場にかける。予測市場たる所以です。そしてそのポイントは、なにをつくるかを判断する人は別にいるということですね。予測市場の結果が自動的に実行されるわけではなくて、その結果を参考に判断できることが大事である、と。

井庭崇
井庭崇
 これは教育でも応用可能だと思うんです。たとえば大学で教育を提供するというとき、次のような判断があるわけです。「これからはこういう社会になる。だからいまこういう人材を育てなければいけない。だからこういう科目が必要だ」と。それ以外の部分で、どういうことをいま学生が求めているかのアイデアが出てくれば、それについて考える価値はあると思うんです。単に教員が重要だと思っている科目以外に、たとえばもっとこういうことを教えてほしいんだとか、そうじゃないんだという話もあったほうが、面白い。

東:

 パブリックコメントの組織票の問題がありますね。そういった問題は予測市場的なシステムを入れることによって、案外簡単に解決するのかもしれないですね。

*1:註:isedキーワード予測市場」参照のこと。またised設計研では、「新しいアイデア」を生むかどうか、という論点が第1回からのテーマになっている。以下の井庭崇の発言を参照のこと。→設計研第1回: 共同討議 第2部(1)

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