ised議事録

08-2110. 設計研第5回: 共同討議 第2部(3)

オープンプロセスとアウトプットの設定

村上:

 それを強いて展開してみます。オープンプロセスというわけですが、プロセスである以上どこかでぐるりと回らないといけないんです。つまり、どこかで閉じている必要がある。たとえばはてなアイデアの場合、はてなのシステム改良につながっている限りにおいて、そのサイクルは完結する。そのプロセスがオープンになっていることによって、参加のモチベーションや面白みの連鎖が生まれて、それがクリエイティビティを積み重ねていくわけです。

村上敬亮
村上敬亮
 ところがさきほど総選挙はてなの話をしました。はてなの上で「自民党民主党より上行っているね」というのが見えたところで、面白い以上のなにがあるのか。ここで面白いということの次になにを持ってくるのかが、おそらく問われるんだと思うんですよ。

 僕のコメントはさきほどから皆さんとすこしズレていて、「それはジェネレーションギャップなのかもしれない。自分でも古いことをいっているな」と休憩中に話していたんです。なぜかというと、僕はどうしてもモノやサービスやシステムを大規模につくるという制度化の部分に常日頃から関心が強い。せっかくこれだけ面白いことがソフト的にまわっていて、オープンなプロセスでクリエイティビティも積み重なっているのであれば、どうすればこれを制度化できるのかを考えたいんです。

 ものづくりというのは最後に時間を止めなければいけないわけですよ。企画にして落として、それを商品として形にするまで社内ですら真似されてはいけない。そして値付けをして、ある程度の値段が持ち込めるようなマスコンシューミングな世界に持ち込まないといけない。ここに切り離して持ってくるというプロセスに強い意識がある。

 他方で、すべてなにもかもなめらかになっていくとすれば、そこでは時間を止める必要もなければ制度化する必要もない。面白がっている奴が面白いものを面白いようにつくる。そうサービスを提供していれば、それで世の中全体まわるんだ、と。そういう見方もあるんです。そしてこのちょうど中間あたりに、はてなは船出をしているのではないか。そう考えると興味深いのは、はてなのオープンプロセスは出口になにを持ってくるのかなんです。つまりはてなシステムの改良以外に、一体何ががゴールに来るのか。そこがすごく面白いところだと思います。

東:

 要するに、アウトプットをなににするのかが重要だ、という話ですね。それは学問の世界でも同じことです。

 たとえば僕の場合、研究会のゴールが問題になる。isedは研究会としては非常にいい加減で(笑)、オープンプロセスそのものが目的になっている。最初に委員依頼の際に申し上げたとおり、特にアウトプットは設定していない。議事録の公開そのものが目的だ、ということになっている。しかし、これだとやっぱりだれるわけです(笑)。ただ、それでも単に集まっている研究会よりはずっといい。議事録というアウトプットがあるわけですから。でもオープンプロセスだけではおそらくだめで、アウトプットがあって初めてオープンプロセスは活きてくる。たとえばisedで最終的に報告書をつくるとか、ムービーをつくるとか。

東浩紀
東浩紀
 研究会を生産的にするというミッションは、学際的な研究会では特に難しい。人文系はアウトプットが言説になる。言説というアウトプットは、議論や思考と同じかたちをしている。だからぐるぐるとまわってしまう。isedが議事録そのものをアウトプットにしているのも必然性があって、ものづくりじゃない限りこういう形式を取らざるをえない。ただそれはループに陥ってしまう。人文系で学際的な研究がうまく行かないのは、この問題があるからです。アウトプットを設定する、ミッションを設定することさえできれば、いまの世の中ではすぐに学際的な研究はできる。しかし、それこそが難しい。

 村上さんはものづくりの現場を問題にされたわけですが、僕みたいな研究者の現場でも同じ問題は起こっています。さらに付け加えると、人文系の学問は言語ゲームの色彩が非常に強いので、アウトプットは紀要なんですね。しかしこれは、学会政治がアウトプットになるということを意味している。それはそれでわかりやすい。しかし学際となると、どこかのフィールドで闘えばいいのか、ということになる。ではどうしたらいいのか。「とりあえず毎月1回会って飲みます?」みたいな話になるわけです(笑)。そこで簡単な解決法は、やはりまた学会をつくることになる。「学際なんとか学会」というように。これもいま次々につくられている。そしてやたらと紀要や学会誌ばかりが増える。「大学図書館には何割ぐらい入った」という話になる。しかしこれも愚かです。

 つまり、知の学際的なネットワークをどうつくればいいのかという問題があって、その成否はアウトプットをどう設定するかにかかっている。この点は村上さんのおっしゃったとおりで、ゴールを設定しないでプロセスだけオープンにしても意味がない。

鈴木健

 ゴールが明確じゃないんだ、と。そこで東さんがisedの次になにを仕掛けてくるのかが楽しみですね。

東:

 それはまだわからないですが(笑)。

 ともあれですね、はてなPodCastingが有効に機能するのは、「はてなを改良する」というゴールが明確だからですね。これがたとえば「はてな論を交わそう」という会議だったら(笑)、毎週1回流れても意味がない。

近藤:

 村上さんのものづくりの話にコメントしたいと思います。たとえば車のメーカーで、「3年後に出す新車の企画会議を公開してはいけない」というのは本当に誰かやったのか? という気がするんです。実際に利用者が企画会議に参加できる自動車メーカーがあったとして、本当に競争優位は失われるのか、僕はすごく疑問なんですよ。なぜなら、まずそれに参加したい人はおそらくそのメーカーから車を買いますよね。そして同じ企画を考えているメーカーは、むしろ真似できなくなる。真似したとなれば多くの人から批判を浴びることになるからです。特許を取る必要がある業界だったとしても、オープンプロセスはやってみなければわからない。それが僕の考えです。

井庭:

 逆にいうと、家電や車はすぐには真似できませんよね。一方、100円ショップで売っているようなものはすぐに真似できてしまうかもしれない。真似できないのであれば、むしろ巨大な産業のほうがオープンプロセスは受け入れやすいのかもしれないという議論は可能だと思う。

村上:

村上敬亮
村上敬亮
 参考までにいうと、ホンダの車で「ホビオ・トラベルドッグバージョン」というのがあります。これはトラベルドッグ・ドットコムというコミュニティサイトがあって、犬を連れて旅行するのが好きな人たちのためのページなんです。ホンダ社はそこで極力後ろに下がっていて、トヨタユーザーだろうがなんだろうが、犬好きのかたはみんな来てくださいというサイトになっている。そこで「あの宿は良かった」「こんなところに犬も一緒に走れる場所があった」といって情報共有をしている。そのサイトで得た知恵を基に特別仕様の車をつくったのがホビオ・トラベルドッグバージョンでした。これはフィットベースの車で、すこし荷室を改良したものだったんですが。

 この事例に見るように、メーカーでも実例はあるんです。ただ、マスにはいかない。ホンダという会社から見ると、顧客管理のオプションにはなっても、そこをブレイクスルーする決定的な要素は見えていない。それがいまの現状ですね。

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