ised議事録

12-107. 倫理研第7回:共同討議第1部(5)

CMCを現実のサブシステムにすべきか、オルタナティブにすべきか

東:

 「誰が」と「どんなひとが」を分けて管理するべきだ、というのは、さきほども高木さんの質問で出てきましたね。白田さんの主張した内容だけのコミュニケーションは、共通IDシステム上でもハンドル名をうまく使えば可能かもしれない。

 それでは、最後に2番目の点についてはどうですか。そもそも言論の質の高低は事前に測れない、したがって、コメントスクラムを排除してしまうのはまずいのではないかという問題です。

小倉:

小倉秀夫
小倉秀夫
 それは白田さんのおっしゃるとおりという気がします。

東:

 小倉さんの考えているIDシステムは、大変な抑止力を持つシステムだと思うんです。普通に書き込みにくくなりますよね。

小倉:

 個人情報が常に把握されている状態といっても、昔のパソコン通信はまさにそういう状態だったわけです。しかし、それが書きにくくしていただろうか。そんなことはないですよね。

白田:

 たしかにそのとおりだと思います。ただ、逆にこう思うんですよ。ブログ主がなにかまずいことを書いてしまって、予想通りコメントが殺到したとしても、ブログ主がさっさと別の名前でまたブログをつくるのではだめなのか。馬鹿が来るので共通IDを入れるというのは、一貫した場所で発言し続けることが前提になっている。それならば、粘着が攻めてきたらさっさと匿名にしてしまえばいいのではないか。

加野瀬:

 メディアで同じ名前を使って発言している人はそれができませんよね。

白田:

 たとえば「白田秀彰」と昨日まで書いていたのに、明日から別の名前で出るのはまずいということですよね。しかし、その人は名前で金を稼げるパワーを持っていて、その自分のリアルワールドでの属性をネットに持ち込んで勝負しているから、名前や属性が動かせないだけでしょう。

加野瀬:

 たしかに普通の人はブログを平気で移転しています。小倉さんは名前を売って発言している人の視点で考えている。しかし普通の人は、白田さんのいうとおり面倒くさくなったらまた新しい名前でブログを開設している。そこに躊躇はないと思いますよ。

小倉:

 そうとも限らない。リアル社会で売れるだけの高名を持っているかどうかに関わらず、リアルワールドでの活動とリンクさせてブログを書く人もいますよ。

加野瀬:

 たしかにそういう人は書きにくくなるでしょうね。それは白田さんがいうように、現実世界のパワーや属性を持ち込んでいるわけではない。

小倉:

 当然ですが、「自分は現実社会で偉いのだから、お前ら黙れ」という話をしたいわけではないんです。単に現実社会の活動の一環としてブログをやろうとしているだけなのに、コメントスクラムのせいでそれがやりにくくなるとしたら、それはそれでおかしい話じゃないですか。

白田:

白田秀彰
白田秀彰
 それはそのとおりですね。

加野瀬:

 そういうことをやろうとする人たちは、たいがい社会的に偉い人だったりする。だからそうした権威に反発して問題が起きやすくなるんでしょうね。

白田:

 いくつかの民間企業が総攻撃を受けるケースがありました。やはりこの場合も、「あいつら金を稼いでいる上場企業にも関わらず、変なことしやがって」という日頃から鬱屈したものが、どっと出てきたという印象がある。もしどこか田舎の某商店で発送ミスがあっても、誰も攻撃なんてしないでしょう。

加野瀬:

 小倉さんの場合も、弁護士と掲げずに発言すれば炎上しないということですね。

白田:

 ただ小倉さんもいうように、リアルワールドと連動した議論ができなくなるのは非常に不利益ですね。そこには価値がある。

東:

 しかし、さきほど白田さんは、リアルワールドの価値観はネットに持ち込まないほうがいいと主張していたのでは?

白田:

 いや、言い方がまずかったのかもしれません。たとえば大蔵大臣白田秀彰と書いて出てきて、「お前ら下賎の者がなにを言うか」と書いたら、それは誰だって怒りますよ。そういったことはやめようということです。しかし、「私はどこそこのテニスサークルでテニスをやっていて、この間の試合の結果は何対何でした」といったことすらネットで書けなくなるのは問題だと思う。リアルワールドを持ち込んではいけないというのは、あくまでリアルワールドの社会的ポジションをネット上の発言力として利用することを指しています。

東:

 ただ、そのふたつは明確に切り離すことはできない。テニスサークルの話にカチンとくる非モテ系のオタクもいるかもしれないわけです(笑)。

 そこで小倉さんは、もう分割するのは止めて、最初からインターネット上の言論空間を物理空間のサブシステムにしようという考えなわけですね。

高木:

 そういう仕組みもあっていいとは思うんですよ。たとえばこの場の議論をネット上でやろうとしても、たしかになりすましや自作自演が邪魔になる。そこで共通IDのメカニズムがあれば、そうした存在を排除したコミュニティをつくることができる。ただ現状では不可能です。一応はてなダイアリーで閉じてやることもできますが。そして小倉さんの議論というのは、法改正も含めた上で事業者のインセンティブをいじり、皆がID制度を採用するような方向に持っていこうというものです。しかしそこまで必要なのだろうかという議論と、少なくとも現状はそうしたことができないという議論は分けておく必要があります。

東:

 小倉さんの考え方では、むしろ法改正こそが必要なのでしょう。ネットを全体的に現実社会のサブシステムにしたいわけですから。

東浩紀
東浩紀
 議論を整理しましょう。ネット上の言論、北田さんの表現を使えばCMC(Computer Mediated Communication)ですが、その価値を評価するときにふたつの立場があるわけです。それを現実空間からの自律性において評価するか、それとも自律性はむしろネガティブにしか働いていないと考えるか。白田さんの場合は前者で、自律性を評価している。後者の立場であれば、ネットはこれからは現実空間により従属したサブシステムにすべきということになる。小倉さんはこちらですね。

白田:

 というのも、CMCは現実のオルタナティブじゃないとまずいと思います。リアルの権力構造がネットにも入ってしまったら、絶対に勝てない人が出てきてしまうでしょう。だからせめてネットの中だけでも勝てる状況があるべきではないか。それが公正の一要素だと思うんですね。逆に不正なシステムというのは、負けた人間が絶対に勝ち上がれないシステムのことだと思います。負けても再び勝ち上がれる経路が常に保障されていれば、たとえ優賞劣敗が生じたとしてもそれは正当なシステムといいうる。かつて言論空間はこうしたフラットな空間だったと思うんです。

 ただ現状は明らかに商業的なバイアスがかかっている。この発言をプッシュすれば売れる。この発言は商売に邪魔だというように。そうであるならば、商業的価値による発言力の大小とは無関係なメディアは絶対に必要でしょう。そうしたものとしてネットは立候補してきたわけですから、それをまるっきり現実のサブシステムにするのはもったいないという気がする。

東:

 そのオルタナティブとしての性格は、まさに辻さんの質問にあった未成年やマイノリティの問題と関係してくる。

小倉:

 いや、共通ID制が導入されても、商業的な価値がなくても弱者の発言はできると思います。共通ID制度は、「この発言は商業的な価値がないからだめ」というところに踏み込むものではまったくありません。白田さんの危惧される点については問題ないと思うんです。むしろ実名がバレた瞬間に攻撃が殺到するようでは、せっかく発言の内容が評価されても「これを発言したのは私でございます」と言い出しにくくなってしまう。そのほうが問題でしょう。

白田:

 しかし、実名がバレたとしても攻撃が殺到するとは限らない。

小倉:

 だが、制裁としての実名晒しは現実に存在します。

白田:

 たしかにあります。しかし、匿名の人が「実は私はどこそこの誰でした」と告白し、突然その人に攻撃が集中してしまい、生きていけないほどダメージを受ける。はたしてどうなんでしょうか。

加野瀬:

 最近の具体例ですと、本名だけでなく就職先の話をブログで書いていた人に対して、その就職先に問い合わせるケースがあります。

白田:

 なるほど、それはダメージがありますね。

辻:

辻大介
辻大介
 実名が晒されたその後に攻撃が殺到するというのではなく、実名晒しそれ自体が制裁として働いているのではないかと思うんです。であればこの共通IDシステムを採用したとして、仮にハンドルネームなり仮名でやっていたとしても、実名を晒されることは引き続き制裁として働いてしまう。そうなると、匿名と事態はなんら変わらないわけです。結局リアルワールドとリンクしたことは書き込むことはできない気がしますね。

小倉:

 いや、共通ID制度を採用すると、「実名を晒す」という行為自体がリスクを伴うようになるんですよ。その実名を晒した人間が誰かがわかるようになりますから。いま実名を晒しても、それ自体は何のリスクも負わないわけです。実名を晒して「こいつに<電突>*1をかけてやれ」と書き込んでも、まったくリスクがない。そこで共通IDにすれば、実名を晒される危険は減ると思います。

高木:

 しかしながら、それはほとんどのサービスプロバイダが共通IDの仕組みを採用した場合ですよね。どこか有料の匿名サービスで晒しを行い、誰かがそれを探してリンクを貼ってしまえば、予防効果はあまりないような気もします。

小倉:

小倉秀夫
小倉秀夫
 そうした共通IDを採用しない匿名サービスで、実名晒しを含めた違法行為が頻繁に行われた場合は、実際に損害賠償請求をガンガンされるわけです。事実上そこは潰れていくでしょう。

高木:

 だといいんですが。しかし、潰れてしまったらそれはそれで困るでしょう。事実上そうした匿名サービスは存在しないということになってしまう。

東:

 小倉さんの想定だと、有料の匿名プロバイダが5年か10年程度オプションとして存在しているかもしれないが、そこは自動的に負けていく。でもそれでは、オプションにはならないですね。

小倉:

 そうではありません。匿名のサービスを利用する人たちに、どれだけ自制心が働くかどうかという話なんです。

高木:

 2ちゃんねるにはある程度そういう仕組みが働いているんですかね。

加野瀬:

 そうですね、個人情報はすぐに削除というガイドラインがありますから。

小倉:

 ただし、ほとんどの場合は被害者が泣き寝入りしていますから、自制心を働かせるインセンティブが沸かないんです。

*1:註:「電話突撃」の略。電突Blog:祝!設立より引用:『電突とは、「電話突撃」の略で、マスメディアの報道、政治家の発言などに、違和感を覚えた、または、意見があるという人たちに代わって、電話でマスコミ、政党などに質問し、それをネット上の掲示板「2ちゃんねる」で公開するというものです。』

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