オートポイエーシス

オートポイエーシス

 チリの生物学者、マトゥラーナとヴァレラによって提唱された、生命システムの概念。閉鎖系での自己言及(自己準拠)システム、自己組織化モデルのこと。

 ギリシャ語のauto(自己)とpoiesis(でつくる)を組み合わせた造語で、autopoiesis「自己創出」などと訳される。

オートポイエーシス・モデルのシミュレーション

 設計研第4回にて、鈴木健によってオートポイエーシス・モデルのシミュレーションが紹介されている。

図:なめらかでない概念
図:なめらかでない概念

動画:オートポイエーシスのセルオートマトン (再生にはWindows Media 9以上が必要です。)

 ここでマス目状の図になっているのは、フランシスコ・ヴァレラが1974年につくった「オートポイエーシス」のモデルで、「セルオートマトンと呼ばれているものです(図:なめらかでない概念)。詳しく説明すると、1個1個の点がセルという要素で、隣の要素と相互作用するようにプログラムされています。そうしたセルオートマトンという研究分野があるのですが、それを使って細胞を再現しようとしたものがこれです。ひとつひとつの要素は、隣の要素と相互作用するだけなんですが、全体的に内側と外側を分けるような不思議な振る舞いが現れる。1個1個の要素はミクロな相互作用しているだけなのに、マクロ的には膜のような存在ができて、内側と外側を分ける細胞という存在が出現する。つまり非常にフラットな世界から、内側外側を分けるような切り立った世界が生まれているわけです。

 

オートポイエティック・ターン

 設計研第4回の井庭崇の講演にて言及される、社会学者ルーマンに関する用語。

「コミュニケーションの連鎖」という捉え方――ルーマンの社会システム論

 ここで、コミュニケーションの連鎖という概念について、社会学の文脈から検討してみましょう。設計研でも何度か参照されるニクラス・ルーマンの社会システム論は、「オートポイエティック・ターン」といって、社会の構成要素が人や行為だと捉えられてきた社会学の従来の思考伝統に対し、社会の構成要素を「コミュニケーション」とする視点の転換を行っています(図:「コミュニケーションの連鎖」という捉え方)。ルーマンは、社会システムとはコミュニケーションがコミュニケーションを生み出す自己創出的(オートポイエティック)なシステムとして捉えているわけです

 ルーマンの議論からは、今日の議論のインプリケーションを引き出すことができます。たとえばルーマンは、コミュニケーションがコミュニケーションを生み出していくけれども、コミュニケーションは一瞬で消えてしまう出来事なので、社会システムとして繰り返し安定的に連鎖していくためにはなんらかのうまい仕掛けが必要であるといいます。そして、それをメディアと呼んでいるんです。たとえば経済システムというのは、支払いが支払いを生んでいくコミュニケーションですが、そのコミュニケーションを媒介する貨幣というメディアがないと持続的に連鎖していきません。貨幣というメディアがあることによって、その一回ごとの交換関係が担保され、次々と連鎖が起こるようになるわけです。貨幣があればこそ、私たちは経済的コミュニケーションすることもできるし、それに参加するためのシンボルにもなる*1

(中略)

 またここでいうコミュニケーションというのは、パイプをメッセージが通っていくという単純な情報伝達のイメージではなくて、もうすこしクリエイティビティを生み出す誤解や新しい解釈を含むものを指しています。たとえばAとBという選択肢があって議論しているとき、私たちの言語的コミュニケーションは、「いや待て、B'があるじゃないか」「Cがあるじゃないか」とオルタナティブを提案できる、ある種のクリエイティビティを伴っている。単に「私はこう思っている」といいあうだけの情報の移転ではなく、そこに新しい意味づけをしていくことができるようなものとしてコミュニケーションを捉えていると理解してください。

 ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンは、1980年代に上梓した『社会システム論』(星社厚生閣、1993年 asin:4769907427)を境に、生物学者マトゥラーナ=ヴァレラの「オートポイエーシス」という概念を自身の社会システム論に採用した。そこでは社会の構成要素が人や行為だと捉えられてきた社会学の従来の思考伝統に対し、社会の構成要素を「コミュニケーション」とみなし、社会システムをコミュニケーションの自己創出(オートポイエーシス)として把握した。この理論的転換のことを「オートポイエティック・ターン」と呼ぶ。(isedキーワード「機能構造主義」「繋がりの社会性」参照のこと。)



参考

  • Varela, Maturana, and Uribe, "Autopoiesis: theorganization of living systems, its characterization and a model",BioSystems, 1974. 
  • ヴァレラ/マトゥラーナ「オートポイエーシス――生命システムとは何か」(国文社、1991年)。
  • 河本英夫『オートポイエーシス―第三世代システム』(青土社、1995年 asin:4791753879

*1:註:ルーマンの社会システム理論では、たとえば電話やテレビのような「伝播メディア(伝送路としてのメディア)よりも、権力・貨幣・法といった「成果メディア(シンボルによって一般化されたメディア)」」が理論的に重視される。たとえば経済システムは、「支払うか/支払わないか」というテーマでコミュニケーションが算出されるシステムとして把握される。そこで貨幣というメディア(媒質)は、「支払い/不支払い」という二値的なコミュニケーションのフォルム(形式)を支える役割を果たす、といった具合である。

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