レッシグ

レッシグ

「啓蒙から運動へ」

 

 倫理研第1回: 共同討議 第2部(1)でディレクター東浩紀は、インターネット上の啓蒙と運動の分水嶺について整理するなかで、

運動の段階になると、それこそ、ローレンス・レッシグの著作が『CODE』から『コモンズ』、そして『Free Culture』へどんどん議論がわかりやすくなっていくのが示しているように(笑)、もう「3秒ルール」の世界にならざるをえない。つまり、大衆動員を目的とすると、さきほどまで話題になっていたような、2ちゃんねる的でネタ的なコミュニケーションに突然直面せざるをえなくなる。そういう逆説というかジレンマがあると思うんですね。創発的な情報発信とサイバーカスケードはここでも表裏一体なわけです。

と指摘する。同様の問題については、

にて、次のように語っている。

東:先ほどの白田さんの話につながりますが、法が作られる前の規範や感性、これは言い換えればライフスタイルですよね。僕は、著作権関係の問題はライフスタイルの対立によるところが多いと思うんです。あえて低いレベルに落とし込むと、たとえば、ケータイを電車で使っていいのかどうかという話がありましたよね。あの手の問題には結局論理的な解はないわけですが、Winny問題もそれと同じ感じがする。要は、新しい技術に対するコンセンサスがないところで、複数のライフスタイルが争っている状態ではないか。

 問題はそれをどう調停すればいいか。『Free Culture』のレッシグはその点単純化しすぎていると思う。(国家や資本がクリエイターや消費者を搾取している、という図式になっている。)「要はヴァレンティを暗殺すればいいのか?」みたいなところがちょっとある(笑)。

 (中略)まあ、そこまでいまの彼が追いつめられている、ということだとは思うんです。しかし、読む側としては刺激的じゃない。レッシグも『CODE』のころは、現実にはいろいろなライフスタイルがありうるとして、問題は、特定のライフスタイルを持つ集団がアーキテクチャを独占し、ライフスタイルの衝突とは別のレベルで社会を管理するようになることなのだという認識だった。

 また同様の問題は、「監視社会論」にも見られると東はblogで指摘する(hirokiazuma.com/blog: ライアンとレッシグとムーア)。それは旧来ながらの「国家対市民」という左翼運動の図式をひきずると同時に、現代版ラッタイド運動のような反ライフスタイルの提案――ちょうどベジタリアンやスロー・フード運動のような――にしかならず、決定的な説得力に欠けることを指摘している。

 

 そもそものレッシグの言説戦略を簡単にたどってみよう。レッシグは『CODE』で人間を規制・制御するものとして「法、規範、市場、アーキテクチャ」の4つがあるとした。4番目のアーキテクチャは通常「建築・土台」を意味するが、「コンピュータ、ネットワーク、プログラムなどのシステム設計および設計思想」のことを指し、ここでは「環境」の意味に近い。アーキテクチャによる規制は、そもそもその規制の存在そのものが認識しにくく、不自由感を相対的に与えることなく、無意識的にコントロールに従うよう人々の振る舞いを誘導する。

 レッシグは同書で、サイバースペースの世界――OSやアプリケーション、ウェブサイトなど――においては、このような「アーキテクチャ」の設計が、民主主義的なプロセスを経ずにビジネスの論理だけで次々と改変されていく(法までそれに追随する!)という事態が進行することに警鐘を鳴らした。そしてレッシグはこうも言う。情報の世界はこれまでサイバーリバタリアン達によって本源的に自由なフロンティアとして信仰されていたが(「サイバースペース独立宣言」)、それは「そのように設計されていた」に過ぎない。いまそのアーキテクチャの設計が――いかようにも変更しうるという自由を持つがゆえに――変えられようとしている以上、それに抗するには、法に先行するアメリカ建国の父たちが定めいまに至るまで護持してきた「憲法的価値」に遡及したうえで、法によってアーキテクチャの独断先行を規制させなくてはいけない。こうレッシグは主張する。これを「自由を守るためには自由への規制が必要である」という逆説的な戦略としてレッシグは位置づけていた。

 その後知的財産権の情勢はレッシグが危惧したとおりに進行してしまっており、続くレッシグの著作と活動は、この問題を追い続けている。しかしエルドレッド裁判という著作権延期(ミッキーマウス法)をめぐる裁判で、レッシグたちが主張した「違憲判決」は認められなかった。『Free Culture』の議論が極端な善悪図式に傾いてると指摘される背景には、『CODE』で提唱された「憲法価値に遡及する」という戦略に限界を見たことも要因の一つであろう。

 (isedキーワード「3秒ルール」参照のこと。)

参考

書籍一覧とそれぞれの参考リンク


  • 「コモンズ――ネット上の著作権強化は技術革新を殺す」(山形浩生 訳、翔泳社、2002年)→asin:4798102040
  • 「Free Culture」(山形浩生他 訳、翔泳社、2004年)→asin:4798106801

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