創発

創発

 創発とは英語で"emergence"といい、システム理論や複雑系、生命科学の用語。システムを形成している個々の要素のレベルでは持っていない性質が、システム全体として振る舞う際に発現 emergeされることをいう(「≒部分は全体の総和以上である」)。近年ではネットワーク時代における組織論(コラボレーション論)やイノベーション論の文脈でメタファーとして用いられることが多い。

(isedキーワード「スマートモブズ」参照のこと。)

 また、第1回倫理研の講演情報社会倫理と民主主義の精神』にて、鈴木謙介は以下のように言及している。

創発性の重要な考えとして、個々の要素は全体を把握する必要がない、個々が勝手に振る舞っていても全体の秩序は生まれるというものがありますが、頻繁に持ち出される例として、アリの生態のアナロジー――女王アリはけして個々の兵隊アリに逐一命令を出しているわけではなく、統一的視点を持った指導者は存在しないのにも関わらず、全体としては系統立てられた秩序が存在する群体――がその基礎になっています。

 また公文俊平は、『創発――蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』を引きつつ、「創発」を「同調」や「べき法則」といったネットワーク理論の成果とともに「情報社会の新しい秩序」の原理とみなす議論を展開している。

創発現象の例――鳥の群れモデル(boid)

 設計研第4回にて井庭崇は、シミュレーションというメディアが創発現象を理解するのに適していると紹介している。

シミュレーションは、ボトムアップでなにか秩序が生まれてくる、創発していくという話を扱うのが得意なんですね。たとえば鳥の群れはそのひとつです。鳥の群れには、誰か指揮官がいるわけではなく、鳥たちが自分の周囲を見ているだけで、ボトムアップに群れという秩序が生まれている。これをシミュレーションで再現することができます。鳥たちは、自分の視野を持ち、危険範囲があって、自分にあまり近づかないように注意を払う。そしてその視野のなかで、周りの鳥についていこう、向きを合わせようとする。こうした振る舞いを簡単な式にして演算するだけで、全体としてはきわめて複雑な群れの動きが再現できるというものです。有名なboidというモデルがあって、クレイグ・レイノルズという方がつくっています。

 鳥の群れのモデル“boid”については以下を参照のこと。

 また創発現象の例として、ほかにも蟻の群れなどがよく用いられている。たとえばスティーブン・ジョンソン『創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』(ソフトバンクパブリッシング、2004年 asin:4797321075)などを参照。

貨幣の生成と崩壊のシミュレーション

 さらに設計研第4回にて井庭崇は「貨幣」の発生について紹介している。

 たとえば人間社会においても、いろいろな人が相互作用をローカルに行い、その結果全体的な秩序が創発するという話があります。たとえば物々交換をローカルにしているところに、すこし「記憶」という変数を持たせてあげると、貨幣のような交換力の強いものが突如生成するといわれる。こうしたローカルなインタラクションの結果、なにか秩序ができたり崩壊したりするという説は、言葉で説明されてもにわかには信じがたいわけです。しかし、シミュレーションで実際に目の当たりにすると、その通りになっている。それを体感するためのメディアとして、シミュレーションはいいと思うんですよ。

 ここで「貨幣のような交換力の強いものが突如生成する」というのは、安冨歩『貨幣の複雑性』(創文社、2000年 asin:4423851016)などの議論を受けた発言であろう。

 この著作のなかで安冨は、既存の経済学理論が社会的交換(経済)行為のダイナミクスを正確に把握できていないと批判、複雑系理論によって新たな経済理論の構築を標榜する。そして経済学者 岩井克人の『貨幣論』(ちくま文庫、1998年 asin:4480084118)の議論(マルクス資本論に準拠しつつ貨幣の「無根拠性」とハイパーインフレーションの可能性を論じた)を踏まえつつ、貨幣の自生と自壊の様子をシミュレーションで表現した。

 また井庭によるシミュレーションによる再現については、井庭の講義資料、「「企業と市場のシミュレーション」 - 貨幣の生成と崩壊モデル」を参考のこと。

参考文献

  • スティーブン・ジョンソン『創発――蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』(山形浩生 訳、ソフトバンクパブリッシング、2004年)→asin:4797321075

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