EPIC2014

EPIC2014

 「EPIC2014」とは、Robin Sloan とMatt Thompsonが作成した、インターネット・メディアの未来予測がテーマのFLASHムービー http://www.robinsloan.com/epic/ のタイトルのこと。インターネットが新聞やテレビなどの旧メディアを脅かす(しつつある)としばしば語られてきたが、このFLASHでは2004年までの新技術(ブログ、SNSなど)の動向を元にしつつ、2014年までにEPIC(Evolving Personalized Information Construct)と呼ばれる「パーソナライゼーション型メディア」現れると予測し、話題となった。

 予測は次のようなものである(日本語訳は以下参照。→dSb :: digi-squad*blog: 「EPIC 2014」日本語訳 http://blog.digi-squad.com/archives/000726.html)。

 まず、検索エンジンのGoogleとAmazonが合併する(Googlezon)。そしてあらゆる電子データの検索が可能となり、たとえばブログやSNSに登録されたデータ、たとえば個々人の人間関係、属性、消費行動、また趣味に関する詳細なナレッジを解析した上で、その人が求めるはずの情報を的確に届けるパーソナライゼーション(個人ごとに適応された情報提供)が行われるようになる。そればかりか、ニュース記事の作成もコンピュータが自動で行うようになるともいう。また、すべての個人がEPICに投げ込んだ情報は、あらゆる情報生成の材料になると予測。たとえばごくプライベートなフォトログ(Photolog 写真アルバム型のブログ)の写真も、あるときには記事の素材となる。そして作成された記事の人気度に応じて、Googlezonの巨大な広告費から分け前をもらうようになるだろう。こうしてインターネット上のユーザー間の情報のやりとりは、Googlezonを介してすべて市場的に調整されるようにもなる、と予言されているのである。

パーソナライゼーション型メディアという未来像

 こうしたパーソナライゼーション型メディアという未来は、もちろんEPIC2014が初めて提示したものではない。たとえばニコラス・ネグロポンテは『ビーイング・デジタル』(アスキー、1995年)のなかで、ネット時代の新しい新聞像として、自分の趣味志向にあった記事だけを的確にフィルタリングしてくれる「the Daily ME(デイリー・ミー=わたし新聞)」に変わっていくと語っている。

 これは学者の夢物語というわけではない。2005年2月から3月にかけては、ライブドアによるフジ・サンケイグループ買収劇が話題となったが、そこでライブドアの代表取締役の堀江氏は、あるインタビューに

「人気がなければ消えていく、人気が上がれば大きく扱われる。完全に市場原理。我々は、操作をせずに、読み手と書き手をマッチングさせるだけ」

と答えている。この発言はおそらくEPIC2014を意識したものと思われる。

 また、広告・販促の世界においては「パーソナライゼーション」への動きは具体的なものとなっている。つまり消費者の多様化にともない、テレビなどのマス広告を打ったとしても、その商品イメージは顧客に届きにくく、広告として効率が悪いという認識がマーケティングの世界では定着している。そこで、特定のファンが集うインターネットコミュニティやメルマガを通じて、特定的な小規模集団にむけて広告・マーケティングを行うという「ターゲッティング型広告」への動きが主流となりつつあるという。

希少性の移行

 こうした流れが情報メディアの世界にも現れるのは、なぜだろうか。経営学者 國領二郎の整理によれば*1 、「認知限界の希少性にメディア・ビジネスのロジックが移行するから」と表現できる。すなわち、インターネットの登場は、既存のマスメディア・ビジネスの根幹であったメディア(電波、電線、輪転機&販売網)の希少性というボトルネックを解消してしまう。そこで必然的に、メディア・ビジネスのボトルネック(希少資源)は、むしろ情報の多様化と膨大化にともない、消費者の側の認知限界に移行する。つまり、消費者の情報選別の部分をいかに握るかが、メディア産業における新しいビジネス価値の源泉となるというわけである。

 このように、EPIC2014のようなパーソナライゼーションの提案は、ある種必然的なものともいえる。

キャス・サンスティーンの「デイリー・ミー」批判

 たとえば倫理研第3回で東浩紀が指摘するように、こうしたパーソナライゼーション化は、サンスティーンが危惧する「デイリー・ミー」そのものといってよい。(isedキーワード「デイリー・ミー」/「サイバーカスケード」参照のこと。)

東浩紀

 (中略)最近話題の『EPIC2014』というFLASHで鋭く描かれている。GoogleとAmazonが合併してGooglezonになるという未来予測で、各人がニューズロボットを持ち、自分が欲しいニュースだけをコンピューターが勝手に収集して、記事まで自己生成してくれるような世界。キャス・サンスティーンのいう「デイリー・ミー」的なものの最終形態というわけで、まさしく多元主義的コミュニタリアンの夢でもある。

 

*1:国領二郎、片岡雅憲、野中、郁次郎『ネットワーク社会の知識経営』(NTT出版、2003年 asin:4757121105

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